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このページは、酸化による影響を受けやすい還元的地下水や、湖沼等における底質内または直上の水(低層水)における金属類(重金属を含む)や主要イオンの分析、また二酸化炭素の溶解や脱ガスによって影響を受けるアルカリ度(炭酸水素イオン測定を含む)の分析を行う場合に、地下水や湖水、閉塞された水域での採水に関する留意点の概要を示しています。
水中の金属類(重金属を含む)や主要イオン・アルカリ度等の分析を行う場合、試験対象水としての試料採取において、絶対と言って良いほど必要な注意点があります。注意を怠れば、採水作業中に酸化還元状態が変化し、結果溶存していた成分が沈殿・溶解し、当然ながら分析結果である水質組成は、いとも簡単に変化してしまいます。すなわち採水作業によって、本来把握すべき濃度が正しく把握できなくなるのです。これを避けるためには、水試料の採取から保存処理まで、一貫した調査計画を行う必要があります。ここでは正確に水質を把握するための留意点について、簡単に考え方と対処法をご紹介します。
対象とする水の酸化還元状態を把握する方法、特に現場における試料採取や現場測定の方法については、日本国内においては正しく理解されていないことが多く、大学の分析化学の教室等でも、未だに誤った地下水試料の採取方法が指導されている例を目にします。そのためか、例えば還元環境下にある地下水や湖沼水におけるpH, ORP, アルカリ度, 主要イオンについて明らかに間違えている分析方法による結果の報告や、さらに、誤った分析結果に基づく水質解析(地下水中の溶存ヒ素の解析等も含む)により、明らかに事実とは異なるレポートが作成されています。
ここにお示しする方法は、対象がどの様な地下水・湖沼水であっても、全く同じように対処すべき考え方です。地下水の場合、調査対象帯水層が例え不飽和帯水層であった場合でも、その地下水が必ずしも現在または採取地の大気環境と平衡にあるとは限りません。一方、被圧地下水の場合では、大気との接触が絶たれてから、非常に長い時間を経過していることが多いことから、溶存している遊離酸素はすべて消費されていると考えられます。この点からも、現場状況から憶測するのではなく、正しい測定方法による実測値を用いるべく、同じように配慮しておく必要があります。
なお、調査対象が観測井の場合においては、採水に際して必要な注意点や、特別な配慮を必要とする場合があります。その注意点については、観測井から地下水を採水することの問題点とその解決法に記述していますので、ご一緒にお読み下さい。
地下水の水質調査を行う場合、明らかにその地域の大気と平衡状態にあると判断できる場合を除き、還元的環境下にあると考えて調査計画の立案を行います。また、湖沼等の底層部の水質調査においても同様に、還元的環境下にあると考えます。すなわち、基本的な考え方としては、採取した水を地上に回収した際、地上の空気と採取した水とが、互いに触れることがないようにしながら、地上において水質測定を行い、それによって、水が存在していたその場の水質を把握する方法を用います。もちろん、水中にセンサーを投入することも可能ですが、井戸の場合は、井戸孔内の水が帯水層の水ではないため、この測定法が使えません。地下水の場合は、揚水して、帯水層中の水を取り出さなければならないのです。
この水質測定の後、分析室までの運搬中に水質変化を発生せさせないように、保存処理を行った後、室内において機器分析等の実施となります。
蛇足となりますが、土壌・地層の採取・保存・運搬も同じです。ここは地下水等の水について書いておりますので記述は避けますが、間隙中の地下水が還元的な環境にあるのであれば、当然ながら土壌・地層(porous media)も同じく還元的状態にあると考えられます。よって、土壌・地層を酸素に触れさせないように、採取・運搬、乾燥等が必要となります。
地下水等の酸化還元状態を判断するには、試験室ではなく、採水を行う現場で、酸化還元電位(Oxidation-reduction Potential)を測定し、把握します。日本国内では、地下水や湖沼の底質直上の酸化還元電位(ORP)を測定することは、あまり行われてきませんでした。このため、現在販売されている水質調査の教科書でも、ORPの測定法が記載されていないものすらあります。また、書かれていたとしても、表流水と同じ測定法が書かれており、地下水や深部湖沼の水等の遊離酸素を含まない水を測定するための方法や、その注意すべき点が書かれていないものもあります。溶存酸素(DO)を測定すれば良いと言われることもありますが、DOの測定は、遊離酸素の量を測定しているものです。すなわち、遊離酸素が消費された後の水の状態について、どのような還元状態にあるのか、鉄酸化物還元、硫酸還元、メタン発酵へと進む還元過程のどの段階にあるのか、DO値は理論上単に0(ゼロ)を示すだけですので、この状態を把握することができません。
なお、測定する以前に、酸化還元という言い方に注意が必要です。この表現は、あくまでも相対的な状態をあらわす言い方です。ORPの指示値の数値をもって、酸化状態にあるとか還元状態にある等と言うことはできません(この文章では使ってしまっています。すみません。)。また電極の種類により、ORPの指示値も異なりますので、この点にも注意が必要です。
(ORPの測定値は、標準水素電極の数値に変換して換算計測値として報告します。時々ORP値として計測値をそのまま報告しているデータを見かけますが、これは明らかに誤りですのでご注意ください。換算式は測定電極の種類によって異なります。報告に際しては、電極の種類と適用式を示した上で、変換計測値を示すようにします。蛇足となりますが、換算するには水温が必要ですので、現場計測では水温も記録しておきます。)
ORPの測定にあたっては、対象試験水を空気に触れさせずに行います。バケツやビーカー等のように大気に解放された容器に揚水した試料(地下水など)を入れ、このバケツ等の中の水を測定したとしても、正しい値を示しません。当たり前のことですが、バケツ等に導かれた水には、水に接触している大気圧の分圧分の酸素が、非常に短時間で溶け込む、又はガス交換が発生する(ヘンリーの法則)ためです。開放型容器でORPを測定し、標準水素電極の値に換算し、その値が酸化的状態にあることを示す数値であったとしても、それが元の水があった状態(地下水で言えば、帯水層中の地下水)の水質を示しているのか、わからないのです。この開放された容器の水を測定をしないという注意点は、pHやEC、ましてやDOでも全く同じです。
(非常に残念なことですが、数十年前の誤ったpHやORPの測定方法である開放型のバケツ等を使った測定を、いまだに実施したり、紹介したりしている実例を、youtubeの動画で確認することができます。youtubeのサイトに行き、例えば「井戸 地下水 採水方法」などのキーワードで検索し、表示される動画をご覧いただければ、よくわかります。)
では、どの様にすれば空気に触れさせないで、ORP, pH, DO, EC, 水温等の測定が行えるのでしょうか。これには「フロースルーセル」または「フローセル」という機器を使います。この機器は、密閉された小さい容器に空気が入らないように地下水等を導き、その密閉容器の中の水を測定するための水質測定用容器です。このフロースルーセルは、揚水ポンプ等からインラインで接続するため、揚水からフローセルまでの導水課程中、試験水を空気に触れさせることなく測定を行うことができるものです。
ORPの測定において、もう一点注意点があります。通常の測定電極はガラス電極だと思いますがこの電極の場合、内部液のKCl溶液を少量しみ出させながら測定が行われます。電極に当たる試験水の流速や流量が大きい場合、KClが適切にしみ出ないため、正しい測定値を示しません。従ってセル内部の流速やKClの量(よどみ)に気をつけねばなりません。これはpH測定も同様です。どのように設定するかは、使用されるフローセルと測定電極の取扱説明書に従ってください。流速については、一般には、低速・低容量であるとお考えください(US-EPAやUS-GS等では、およそ0.5mL/min以下が良いとしている文献もあります)。なお当社で紹介しているフロースルーセルの場合、セルの構造上の最大流量は1.0L/minです。
フロースルーセルへ導くためには、このように低速または低量の導水が必要となります。この少ない流量の揚水機器は一般的に3種類の機器が利用されています。最も簡単に利用できるのが、ペリスタルティックポンプ(日本での一般名称はチューブポンプや蠕動ポンプ、弊社扱い機器では3種類(ハンディ、小型、中型)あります)です。次に簡単に利用できる揚水機器は、水中ポンプに低揚水量コントローラーを接続して使用するものです。やや手間がかかるものの利用しやすい機器としては、ハンドポンプで加圧させて吐出可能させるベーラーもあります(この場合、採水量に限界があります)。これらをインラインでフローセルに接続し、水質の測定を行います。(いずれの揚水機器とも当社で紹介させていただいておりますので、ご参照ください。)
フローセルにおいてご注意いただきたい点は、液面開放させているものや、密閉であっても1つの容器(セル)にpHやORPセンサーを入れているもの、センサー部に水流が適切に当たっていないもの等があります。これらについては、前述をご参考に、適切な方法で調査を行っていただければと思います。
このように、採水する現場にてpHやORP、DO等の測定をすることは、それなりに事前の準備も必要ですし、測定時には細心の注意を払って測定するものです。時々、これらの測定を、「簡易測定」との紹介を目にします。あたかも簡単に、水に測定器さえ入れてしまえば、測定値が得られるかのように解説しているネットの記述も見かけます。上に書いた内容を読んでくださればおわかりかと思いますが、決して簡便な調査ではありません。
正しい測定をして、良い結果が得られることを切に願うものです。
分析用試料水は、揚水機から採水を行います。この際、濾過が必要な場合は下記に示す濾過後に、不要な場合は直接試料ビンに入れます。
もちろんフローセル通過後に採取してはいけません。KClを含んでしまうためです。
主要イオンのうち、炭酸水素イオンについては、現場で測定できず、保存もできないので、分析室に運搬せざるを得ないものの、それが故に分析に供するまでの間に変質してしまう。よって、正しい濃度値は得られないと、一部の分析機関ではまことしやかに言われているようです。
炭酸水素イオンが現場で測定できないというのは、明らかな間違いです。炭酸水素イオンは、上で紹介したpHやORPと同様に、変質しやすいのは確かですが、pHやORPと同様に、現場で測定する項目で、ごく普通に現場で測定されている項目です。
炭酸水素イオンは、アルカリ度の測定(酸の滴定)により、正確に把握することができます。(アルカリ度とは何か、を考えればおわかりになると思います。)
現場での滴定操作は、単に1滴1滴を供試体に垂らして色の変化を見るだけですので、特別な操作は必要ありません。1検体を数分もかからずに正確に測定できます。とはいえ、現場でのメスピペットの取り扱いに難を感じるかもしれません。簡単なキット(添加用の酸も含めて)が、ハック社から販売(商品名:デジタルタイトレーター)されています。樹脂製のハンディタイプで、つまみを回すだけで滴下され、その量もわかります。このほか、精度は高くないため、主要イオンの結果として用いることはできませんが、試験紙で測定できるもの(商品名:アクアチェックECO総アルカリ度)も開発されています。(「少量の試料水を用いる環境水中の炭酸水素イオンの新たな定量分析法の開発」(三島 壮智他、日本水文科学会誌 第38巻,第4号,157-168, 2009)
通常の室内機器分析は、一般的な大気環境下で行われます。すなわち地下水等の水試料採取後に、例え密封したとしても、分析の際に陽イオン類等が酸化されてしまうことを示しています。
そこで試料水に酸素が溶け込んでも水質の変化が生じないように(例えば陽イオン等が酸化・沈殿を発生させない)ように、採取直後に前処理を行います。前処理は、一般的に現場での濾過と酸などの添加があります。どのような前処理を行えばよいのか、分析対象の項目に合わせて、適切な処理方法を選択してください。なお項目ごとの酸などの添加については、JIS K 0094が参考になります。
現場で行う水試料の前処理(保存処理)の例として鉄イオンの事例を紹介します。鉄イオンを分析する場合、現場で酸を添加し、全鉄として分析します。酸素が溶け込んでもpHが低ければ、沈殿が生じません。鉄が酸化し水酸化鉄となり沈殿した場合、いくつかの重金属類(例えばヒ素)を吸着します。すなわち、鉄の濃度に加えヒ素濃度も正しい結果を示しません。ただし酸を添加する前に、注意が必要です。試料水が、鉄をやや沈殿させるくらいの酸化還元環境であった場合、鉄の水酸化物の浮遊物質が存在している場合があります。保存処理のための酸添加によりこれが溶解してしまい、濃度が高くなる可能性があります。そこであらかじめこれを取り除くため、酸を添加する前に0.45マイクロのフィルターで濾過を行う必要があります。
現場で行う濾過はどのような方法でもよいのですが、濾過中に試験水を酸化させないようにすることが鍵となります。一般的な吸引濾過装置は、試験水が大気解放されているため、あまり望ましくありません。シリンジフィルターもありますが濾紙面積が小さく、大変大きな力を要します。当社が紹介させていただいている使い捨てカプセルフィルターや金属調査用ベーラー(カプセルフィルター直結タイプ)は、インラインで利用できるため酸化を抑えることができ、濾紙面積が大きいため重力で濾過ができます。これをベーラー先端またはポンプ等に接続し、試料水の採水を行います。
採水時に原位置で濾過が必要な無機物の分析項目 | 採水時に原位置で濾過が推奨される無機物の分析項目 |
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アルミニウム、アンチモン、バリウム、ベリリウム、ホウ素、カドミウム、クロム、コバルト、銅、鉄、リチウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、銀、タリウム、ウラン、鉛、亜鉛 | 陰イオン(塩化物、硫化物)、カルシウム、マグネシウム、栄養源(窒素、リン)、放射化学物質(ラドンガスを除く)、ケイ酸、ナトリウム、溶存態有機炭素 |
引用文献:USGS-National Field Manual for the Collection of Water-Quality Data (TWRI Book 9) Chapter A2. Selection of Equipment for Water Sampling (Version 2.0, March 2003)
主要イオンの測定や水質解析(ヘキサダイヤグラムやトリリニアダイヤグラム等も同様)において、pH/ORPの現地測定以外に、もう一点注意が必要な水質項目があります。それは炭酸水素イオン(旧称:重炭酸イオン)です。このイオンは、空気中の二酸化炭素が溶け込むことにより濃度が大きく変わります。また保存処理もできませんので、現地で測定する必要があります。しかしながらこのイオンは直接濃度測定ができません。そこで現場で「アルカリ度」を測定し、計算式を使って求めます。この方法はJISにも規定されている方法です。
参考ですが、酸等を添加して全量のイオンとして測定した場合、例えば二価鉄や三価鉄のように、それぞれの形態別の濃度を求めるには、どのようすれば良いでしょうか。実際には分析がほとんどできないと言っても良いにもかかわらず、正しくない分析(見たことがある驚いた例は、ろ過によるろ紙上の残渣が、水酸化鉄すなわち三価鉄とする)が行われているようです。地下水試料においては、採取から保存処理までの課程を考えると、分析が困難である以上、理論値による計算(phreeq(USGS)などを使ったスペシエーション計算)を用いる方法が、現在のところ良いと考えられています。
陽イオン類については前処理を行うことができますが、陰イオン類については前処理ができません。そこで、空気を排除したビンに封入し、冷暗所(0~10度)での運搬となります。
冷暗所での運搬についての留意点は、保冷と暗所を持続することです。一般的にはクーラーボックスと、冷蔵宅配便(クール便など)を利用していると思います。これらの利用に際して具体的に注意すべき点を以下に一覧します。
これらの点を踏まえて、運搬は以下のように行うと良いとされています。
以上
更新日:2017年1月13日