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水質調査を目的とした井戸から採水するの際の注意点(基本的な問題点とその解決法)

低量揚水による地下水試料採取の考え方

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 このページは、地下水の水質調査を行う場合の揚水方法の考え方について、特に、帯水層中の水を井戸孔内から採水するための考え方や注意すべき点について、以下の文献等からその概要を示しています。
 ここに記述する調査対象の水質は限定されておらず、どのような水質(揮発性有機塩素化合物、溶解性金属、ダイオキシン類、溶存ガス、溶存酸素(DO)、微生物やバクテリア等)でも、考え方として同じものです。

  1. 参考・引用文献(リンク切れの場合は、文献名で検索して下さい。)
  2. US-EPA, Office of Research and Development, Office of Solid Waste and Emergency Response. Ground Water Issue,“Low-Flow (Minimal Drawdown Sampling Procedures)”(EPA/540/S-95/504), April 1996.
  3. US-EPA REGION I,“LOW STRESS (low flow) PURGING AND SAMPLING PROCEDURE FOR THE COLLECTION OF GROUND WATER SAMPLES FROM MONITORING WELLS”(SOP #:GW 0001,Rev No: 2) July 30, 1996
  4. ASTM,“Standard Practice for Low Flow Purging and Sampling for Wells and Devices Used for Ground Water Quality Investigations”(ASTM D-6771-02), January 2002
  5. US-EPA Region 4, “Groundwater Sampling Operating Procedure” (SESDPROC-301-R1), November 2007.

 水質調査の対象が金属類(重金属を含む)や主要イオン、溶存酸素等の場合においては、採水に際して必要な注意点や、特別な配慮を必要とする場合があります。また。pHやORP測定も含め、これらの調査の際に必要な配慮すべき注意点については、「地下水や湖沼水中に溶存する金属類(重金属を含む)や、主要イオンを分析する際の採水に関する留意点」に記述していますので、ご一緒にお読み下さい。


従来の採水方法(3〜5倍容量の採水前排水)により発生する水質試料の問題とその解決手段

 ここ10数年程度、日本国内において行われるようになった井戸(主にボーリングによる観測井)からの地下水試料の採取の方法は、分析用試料を採水する前に、ベーラーまたは地下水ポンプにより、井戸孔内水の3〜5倍程度の揚水を行い、これを排水し、この排水の後に、分析用試料の採取を行うことが主流となっています。この試料採取前に行う3〜5倍の揚水(予備揚水とか採水前揚水と呼ばれているようです。)を行う根拠として、井戸の中の「孔内水」を採水するのではなく、帯水層中の地下水を採水するために行う(大量の揚水を行うことで井戸孔内に帯水層中の地下水を導く)とされています。すなわち、採水前の井戸孔内の水と、帯水層内の井戸周辺近傍付近の水を排水し、新鮮な帯水層中の地下水を井戸へ導くための作業として、3〜5倍容量の排水(パージ)作業が行われています。
 しかし、この方法を行った場合の水質分析用に採取した試料には、以下に示す2つの問題があると考えられています。簡単に言えば、水質分析用の採水であるにもかかわらず、水質を指標とせずに、単に揚水量のみを指標としている点に問題があると考えられています。

  1. 排水(パージ)のための揚水作業において、無理な揚水(※)をしているか、についての判断がなされていない(これを判断することは非常に困難であるため、結果的に無理な揚水をしてしまう。)。この作業により、帯水層中(井戸から外側)の懸濁物を井戸孔内に引き入れてしまったり、井戸構造物に付着している懸濁物を引き剥がしてしまい、結果的に採取試料にこれらが混入してしまう。また、無理な揚水による地下水位低下のため、帯水層中に空気を侵入させることになり、帯水層又は地下水の酸化を招き、水質変化を誘発する可能性がある。
  2. 異なる帯水層の地下水を引き込んでしまう可能性がある。設置してある井戸のスクリーン(日本国内ではストレーナーと呼ばれる)や充填砂利(孔壁と井戸官の間に充填する砂利)が、1つの完全な帯水層だけに設置し物理的に区切られている場合であれば、3〜5倍容量の揚水を行っても問題にならないが、複数の帯水層の場合、スクリーン区間全体の数倍もの揚水を行えば、異なる水質が混合してしまう。
※:無理な揚水とは、揚水される範囲(井戸近傍の帯水層から井戸孔内まで)の地下水が乱流状態となって揚水されること。一般的に限界揚水量が不明であることから、採水を行う井戸孔内の水位低下量と揚水した水の懸濁状態で判断することが多い。ただし、いずれも3〜5倍を目的とする多量の揚水においては、間接情報であることに注意を要する。

 これらの問題を発生させないためには、無理な揚水を行わない方法により採水を行う事が良いと言われています。これには2つの方法があります。1つはPassiveSamplingと呼ばれている方法で、井戸孔内と帯水層の疎通がよい場合において、一切の揚水をせずに孔内水を採水する方法(参照:「パッシブサンプリングの特徴」弊社技術資料集)。もう1つは、非常に少ない揚水量(低量揚水または低流量揚水)による方法です。
 低量揚水は、できるだけ地下水位の低下させず(無理なストレスをかけず)に、採水対象とするスクリーン区間から行う揚水/採取方法です。低量揚水による採取方法は、時間あたりの揚水量(フローレート)や、トータルの揚水量について、特定の量は規定されていません。一般的に言われている低量揚水の揚水量(フローレート)は、おおよそ0.1〜0.5L/minとされていますが、これは井戸や帯水層の状態によりますので、必ずしもこの値が標準値ではありません。揚水量を判断するには、水位低下量と水質指標で行います。すなわち低量の揚水を行う際には、水位計にて孔内水の水位低下量の観測を行うと同時に、水質の測定を行います。水位低下量は、無理に揚水しているのか、その判断指標となります。また水質指標は、帯水層の内部の地下水が揚水されているかの判断指標となります。

採水時の判断(低量揚水時の水質の安定の指標:帯水層の水を揚水していると判断する方法)

 水質分析を行うための試料として、揚水されてきた水が、採水すべき水であるかの判断、すなわち帯水層からの水が揚水されているかの判断は、水量ではなく、水質で判断することが良いとされています。この水質パラメーターには、pH, EC, ORP(酸化的環境の地下水の場合に限ってDOも可), 水温, 濁度を用います。
 一般に第一の判断基準となる水質指標はpH, 温度, ECであり、これに続く第二の判断基準はORP(限定的にDOも可), 濁度です。もちろんこれらの水質の計測は、濁度を除き、揚水を行っている間は、フロースルーセル(フロースルーチャンバーとも言う)を用いて継続的に監視・測定されていることが前提となります(参照:「地下水採取の留意点」弊社技術資料集)。
 地下水は一般的に還元的環境下にあることが多く、空気に触れた場合には、空気中の酸素が溶け込む(ヘンリーの法則)ことにより、水質が容易に変化(分圧分の酸素・二酸化炭素の水への溶解・水からの脱ガスは瞬間的に行われる)します。このため空気に触れずに水質の監視を行うことのできるフローセルは、水質測定に必須の器具です。
 監視すべき水質項目は、先の項目のうち1つだけはでなく、複数、できれば4種類(pH, EC, 水温, ORP(限定的にDOも可))の項目が望ましいと言われています。また目視で濁度状況も確認しておくことも望ましいと言われています。
 水質の安定性指標の値は、一般的に次のように言われています。

当社からのお薦め

 当社では、2種類の低量揚水を行うことのできるサンプラーポンプを用意しております。1つはペリスタルティックポンプ(蠕動送液ポンプ、チューブポンプ)で、もう1種類は水中ポンプ(コントローラーにより低量揚水にも対応しているもの)です。ご紹介している採水器はいずれも低量揚水用のポンプとして、アメリカやヨーロッパ等で標準品として利用されている物です。また適切に帯水層からの採水を行うための管理用ツールとして、いつもお使いのpHメーターなどが使えるフローセルもございます。
 なお、サンプラーポンプは、その揚水する仕組みにおいて、分析用に揚水できない対象の水質項目があります。たとえば、ペリスタルティックポンプは引圧をかけますので、揮発性物質や溶存ガス等には向きません。また、プロペラ状のものはキャビテーションによる気泡発生が考えられます。詳細は、弊社のそれぞれの製品ページをご覧下さい。

 


< 補足解説 >

 地下水の水質調査を行うに際し、本質的に注意をしなければならない点があります。それは、井戸のことです。地層から直接的に水が湧き出ていない限り、地下水を採水するためには、人為的な構造物である「井戸」を設置しなければなりません。
 この補足解説では、この井戸について、水質調査を行うための注意点を示します。
 なお、この井戸に関する記述は、このページとは別に別にとりまとめのページを設け、移動させる予定です。

 一般的に、井戸は、地下水を利用するための「揚水井(ようすいせい)」と、地下水を観測するための「観測井(かんそくせい)」があります(※)。そのうち観測井は、主に、水位観測用の「水位観測井」と、水質調査用の「水質観測井」の2種類があります。それぞれの井戸は、設置する目的が異なりますので、井戸の設計(一般的に井戸諸元と言われる「井戸構造」「使用部材」と、「掘削工法」等の設計を行います。)内容が全く違うのです。

 ※:井戸と呼ばれるものには、このほかにも、石油や天然ガスの生産井(せいさんせい、Production well)、地盤沈下を観測する井戸や、地中熱を利用する井戸などがあります。

 地下水の水質調査は次の4つで構成されています。

  1. 水質観測井の設置:観測を行う帯水層の地質と観測対象の物質(水質)とを井戸の設計条件として、井戸構造とその構造に最適な工法(循環水の選定を含む。)を検討し、井戸設計(施工管理基準の設定を含む。)を行い、設置する。
  2. 水質観測井の設置後:井戸洗浄を実施し、その後、整流で汲み上げることのできる揚水量を確認する。
  3. 採水:分析対象とする水質に適切な採水方法により採水を行う。採水方法の注意点は、このページ上部や、弊社の技術資料集に書いてありますのでご参照下さい。
  4. 運搬:分析対象とする水質に適切な運搬方法により分析室まで運搬する。なお、保存のできないもの等の対象水質によっては、採水直後(現地にて)に分析を行う。

 井戸を新設せずに既存の井戸を用いて水質調査を行う場合、調査計画の立案に際し、井戸諸元を確認する必要があります。一般的に、観測井と言われているものは水位観測井であることが多く、無条件に水質分析用試料を採水できるとは限らないためです。確認した井戸諸元により検討するのは、主として以下の3つです。もちろん、観測井設置時の工法も確認できれば、さらに良い採水計画が立案できます。

  1. 対象とする帯水層や分析項目に対応できる井戸諸元であるのか評価し、採水の可/不可、限界等を判断する。
  2. 対象とする帯水層中の地下水の賦存状態を確認する。
  3. 確認した井戸諸元と地下水の賦存状態に基づいて、調査を行う対象水質項目に適した採水方法を検討し、この方法を採用し、採水する。

 地下水の水質調査の基本的な視点は、「帯水層中の地下水を、人為的な影響を一切与えずに、帯水層中にあるがままの状態で、地上の分析機器に導入し分析する。」ということにあります。
 採水を行う井戸が、目的とする水質に不向きであれば、例え採水を同じ方法で行ったとしても、その度に異なる水質の水を採取してしまい、結果として同じ井戸であるにもかかわらず異なる水質分析結果となってしまうことは、おわかりになるかと思います。

 地下水用の井戸の設計方法や工法(これらをまとめて鑿井(さくせい)技術と呼ばれています。)については、なかなか良い本がないのですが、広く国外において最初に読むべき入門書として Johnson Screens の Groundwater and Wells が良いと言われています。ただこの書籍は、井戸による水質影響については記述が少ないことと、日本国内には向かない工法が書かれているところがありますので、地下水の水質や、国内の鑿井技術等をご自身で考えながらお読みいただければと思います。

以上


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更新日:2017年2月1日

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